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三津は持たせてもらった煮物を渡した

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三津は持たせてもらった煮物を渡した

三津は持たせてもらった煮物を渡した。文は早速夕餉に加えようと嬉々として台所へ向かった。

 

 

「あっ押花出来ちょるけぇ明日にでも文出しとくで?」

 

 

「ありがとうございます!今日書き上げますね!」

 

 

三津は無事着いた事と今日の出来事を入江に報告しようと笑みを浮かべた。

楽しそうに微笑む三津を見て文も少し安心の笑みを浮かべた。だが余所者と言う言葉が引っ掛かった。

 

 

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夕餉を食べながら初日の感想を聞いた。勝手が違うから大変だけどやり甲斐はあると三津は笑顔で答えた。

次郎もしずも褒めてくれたし一之助とも時間をかければ上手くやっていけそうだ。「頑張り過ぎんでええんよ?」

 

 

三津が余計な事を考えなくて済むようになるべく目の前にやる事を積み上げたのだけど,もう少し心を休ませてあげた方が良かったかと思った。

 

 

「忙しなくしてる方が気が紛れていいです。今は何も考えたくないんで。」

 

 

気持ちを整理するほどの余裕もないから,今は新しい暮らしに慣れることにいっぱいいっぱいになった方が断然いいと三津は笑う。

 

 

「そうや。明日フサちゃんが夕餉食べに来るって。早く三津さんに会いたくてうずうずしちょった。」

 

 

「やった!それを楽しみに明日も頑張れます。」

 

 

食事と湯浴みを済ませてから,三津は楽しい事だけ考えつつ入江に送る文を書き上げた。

無事萩に着いたこと,仕事が見つかって働き出したこと,文とフサが居るから心配しないで欲しいと短めの文に留めた。

そして文が作ってくれた押花を文に挟んで文に託した。

 

 

 

翌日店に行くとすでに一之助が店先を掃除していた。

 

 

「おはようございます!すぐに代わりますね!」

 

 

「おはよう。別に構わんで?」

 

 

いつも自分がやる仕事だと一之助は言うが三津は自分に出来る事がまだ少ないからこれぐらいはやらせてくれと言って代わってもらった。

 

 

『掃除って無心になれるんよな。』

 

 

イライラしたり嫌な事があった時にこれはかなり有効だった。無心になれるし気づけばスッキリしているし身の回りも綺麗になるし良い事尽くしだなと励んだ。

 

 

せっせと掃き掃除をして格子戸を磨いていると視線の先で数人の女子がちらちらこっちを見ながら話をして時折口元を隠して笑っている。

 

 

これも余所者への洗礼か。別に気にする事はない。三津は素知らぬ顔で掃除を続けた。

 

 

「三津さんそんな丁寧にせんでもええっちゃ。元々汚い店やけ。」

 

 

一之助がもういいよと呼びに来た。

 

 

「お世話になる大事なお店なんで。すぐに片付けますね。」

 

 

三津は水の入った桶を抱えて箒にも手を伸ばした。

 

 

「あー!あー!持つ持つ!一人で全部やろうとすんな。俺おるんやけ頼れや。」

 

 

一之助はこの汚い水を浴びる気かと桶を取り上げた。

 

 

「すみません。」

 

 

「一緒に働いとるんやけ当たり前じゃ。」

 

 

ふいっとすぐに顔を背ける一之助をにこにこ見ながら三津はその背中について行った。

 

 

この日もしずや一之助を見ながら仕事のやり方を真似た。元々甘味屋で一度会った客の顔を忘れない特技を身につけていたから三津の評判は上々だった。

 

 

客達の間でも自分は名前も覚えてもらっただの好物を覚えてもらっただの自慢し合う程になっていた。「お三津ちゃん物凄く評判ええんよ。」

 

 

しずに褒めてもらい喜ぶ三津の側で一之助は浮かない顔をしていた。

 

 

「遅くなる前に帰ろう。文ちゃん待っちょるやろ?」

 

 

「あっ!そうや今日フサちゃん来るんやった!」

 

 

三津は可愛い妹の顔を思い浮かべてこれでもかと言うぐらい目尻を下げた。

 

 

『なんやこの気の抜けたような間抜けな笑顔は。』

 

 

ふにゃふにゃな三津の顔を見て一之助はふっと鼻で笑った。

 

 

「そしたら早よ帰らんと。行くで。」

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