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「夫婦ごっこやなくて夫婦です。」
「うん,そうだね……。」
弱々しく笑った桂はその後に何か言いたそうだったのに飲み込んだ。そこに気付いた三津は息を吐いた。
「遠慮せずに言いたい事言ったらどうですか?」
「すまん……。気持ちは私の所にないから……まだ夫婦になりきれないなと……。すまない,私はやっぱり三津の心が欲しい。九一のように愛されたい……。」
三津はしょんぼり肩を落とした桂を見て,しまったと思った。つい口調がきつくなる。二月ぶりの夫婦水入らずの時間なのに落ち込ませてしまった。
『上手くいかへん……。』
前のように出来ないのは桂への愛情が薄れているからだろうか。【脫髮治療】拆解最新技術 - ARTAS植髮手術過程! -
「京に居た時の……私との思い出で印象深いものはなんですか?」
「えっ?思い出?」
唐突な質問だが桂はすぐに当時を思い出して,いっぱいあるなぁと目を細めた。
「出逢い以外で言うなら初めて想いが通じ合った時。あの雨の日に路地裏で口付けを交したのは忘れられない。初めて三津が私を好きだと言ってくれた。」
三津が会える確証もないのに雨の中を彷徨ってくれていたのが,いじらしくて堪らないと悦な表情を浮かべた。
桂の表情が和らいだのを見て三津もほっとした。
「あの時は悪い男に騙されたと思いましたね。」
桂の表情が和らいだのにまた嫌味を言ってしまった。だが桂は気にも留めずに笑っていた。
「そうだね。私は悪い男だ。でも君への想いに偽りはないよ。
壬生に身を置いてる間は気が気じゃなかった。愛しい君が誰かのモノになってやしないかと。」
桂は至って真剣だったのに三津は吹き出して笑った。何故笑われたのか分からない桂はきょとんとした。
「ごめんなさい。久しぶりにその……歯の浮くような言い回しを聞いたので。」
きょとんとしていた顔が苦笑いに変わった。
「そうだね。九一はそんな事言わないね……。」
「もぉ!違いますって!以前はその言葉がこっ恥ずかしくてでも嬉しくて,あなたに愛されてると自惚れていいのかと思ってたあの頃が懐かしくて。
私があなたを愛してたのは紛れもない事実ですから。」
『愛してた……か。』
「まだ……自惚れてていいんだよ?」
「そうですね。」
三津はふふっと笑って視線を膳に落とした。
「いつまで寵愛を受けられるのか,今は不安です。だって私は……。」
それ以上の言葉を聞きたくなくて桂は膳を押し退けて三津を抱きしめに行った。
「死ぬまで……死んでも愛してるに決まってる。稔麿と来世を約束しようが私も譲る気はない。」「例え,私が三津の一番じゃなくたって私の愛は変わらない。私は一番に君を愛する。」
強く抱きしめ,ありったけの言葉を並べようとしたが三津はくすくす笑って胸を押し返した。
「一番やなくて唯一にしてもらえませんかね?一番やと二番,三番がおるんかなって思います。……まぁ私が言えた口やないですけどね。」
戯けたように三津は笑うが,無理してそう繕っているのは桂には分かった。それだけ三津を見てきたんだ。甘く見てもらっちゃ困る。
「唯一無二に決まってるだろう……。三津だけだよ。私には。」
だから失ったらもう終わりなんだよと切実に訴えた。代わりなんて居ないんだ。
「分かりました。大丈夫です,どこにも行きませんから。安心してください。
さっ!残りも食べて湯浴みして後は二人でまったりしましょ。」
まったりの言葉に桂の体がピクリと反応した。それはあんな事やこんな事もねだっていいだろうかと瞬時に考えが巡らされた。
「考えが顔に出てますよ。」
少しにやついた顔をすぐにキリッとさせた。断じて邪な考えはないと済ました顔をした。
「隠さなくていいですよ。後継ぎは必要でしょうから。」
「その言い方は嫌だな。後継ぎが欲しいんじゃない。三津との子が欲しい。三津に似た子だと溺愛してしまうかもな。」
想像しただけで可愛いよと目尻を下げた。三津は気が早いと思ったが,幸せそうな桂を見て同じように笑みを浮かべた。
「容姿はあなたに似た方がいいと思いますけどね。」
「歩く問題児にならなければいいさ。」
三津は持たせてもらった煮物を渡した。文は早速夕餉に加えようと嬉々として台所へ向かった。
「あっ押花出来ちょるけぇ明日にでも文出しとくで?」
「ありがとうございます!今日書き上げますね!」
三津は無事着いた事と今日の出来事を入江に報告しようと笑みを浮かべた。
楽しそうに微笑む三津を見て文も少し安心の笑みを浮かべた。だが余所者と言う言葉が引っ掛かった。
「お店やってけそう?」 【脫髮治療】拆解最新技術 - ARTAS植髮手術過程! -
夕餉を食べながら初日の感想を聞いた。勝手が違うから大変だけどやり甲斐はあると三津は笑顔で答えた。
次郎もしずも褒めてくれたし一之助とも時間をかければ上手くやっていけそうだ。「頑張り過ぎんでええんよ?」
三津が余計な事を考えなくて済むようになるべく目の前にやる事を積み上げたのだけど,もう少し心を休ませてあげた方が良かったかと思った。
「忙しなくしてる方が気が紛れていいです。今は何も考えたくないんで。」
気持ちを整理するほどの余裕もないから,今は新しい暮らしに慣れることにいっぱいいっぱいになった方が断然いいと三津は笑う。
「そうや。明日フサちゃんが夕餉食べに来るって。早く三津さんに会いたくてうずうずしちょった。」
「やった!それを楽しみに明日も頑張れます。」
食事と湯浴みを済ませてから,三津は楽しい事だけ考えつつ入江に送る文を書き上げた。
無事萩に着いたこと,仕事が見つかって働き出したこと,文とフサが居るから心配しないで欲しいと短めの文に留めた。
そして文が作ってくれた押花を文に挟んで文に託した。
翌日店に行くとすでに一之助が店先を掃除していた。
「おはようございます!すぐに代わりますね!」
「おはよう。別に構わんで?」
いつも自分がやる仕事だと一之助は言うが三津は自分に出来る事がまだ少ないからこれぐらいはやらせてくれと言って代わってもらった。
『掃除って無心になれるんよな。』
イライラしたり嫌な事があった時にこれはかなり有効だった。無心になれるし気づけばスッキリしているし身の回りも綺麗になるし良い事尽くしだなと励んだ。
せっせと掃き掃除をして格子戸を磨いていると視線の先で数人の女子がちらちらこっちを見ながら話をして時折口元を隠して笑っている。
これも余所者への洗礼か。別に気にする事はない。三津は素知らぬ顔で掃除を続けた。
「三津さんそんな丁寧にせんでもええっちゃ。元々汚い店やけ。」
一之助がもういいよと呼びに来た。
「お世話になる大事なお店なんで。すぐに片付けますね。」
三津は水の入った桶を抱えて箒にも手を伸ばした。
「あー!あー!持つ持つ!一人で全部やろうとすんな。俺おるんやけ頼れや。」
一之助はこの汚い水を浴びる気かと桶を取り上げた。
「すみません。」
「一緒に働いとるんやけ当たり前じゃ。」
ふいっとすぐに顔を背ける一之助をにこにこ見ながら三津はその背中について行った。
この日もしずや一之助を見ながら仕事のやり方を真似た。元々甘味屋で一度会った客の顔を忘れない特技を身につけていたから三津の評判は上々だった。
客達の間でも自分は名前も覚えてもらっただの好物を覚えてもらっただの自慢し合う程になっていた。「お三津ちゃん物凄く評判ええんよ。」
しずに褒めてもらい喜ぶ三津の側で一之助は浮かない顔をしていた。
「遅くなる前に帰ろう。文ちゃん待っちょるやろ?」
「あっ!そうや今日フサちゃん来るんやった!」
三津は可愛い妹の顔を思い浮かべてこれでもかと言うぐらい目尻を下げた。
『なんやこの気の抜けたような間抜けな笑顔は。』
ふにゃふにゃな三津の顔を見て一之助はふっと鼻で笑った。
「そしたら早よ帰らんと。行くで。」
「中岡さんに妬いてるんですね桂さん。
ですがよく考えてください,三津さんは男に不慣れです。あれだけ顔を寄せられたら照れるのは当然でしょ。
それにさっきのは断るのは失礼だと,桂さんの顔に泥を塗らない為に喜んでと言ったんですよ?
それなのに妬いて三津さん困らせないでくださいよ。」
事情を察して三津を庇ったのは入江だった。
入江にそう言われて桂は口を横一文字に結んだ。【脫髮治療】拆解最新技術 - ARTAS植髮手術過程! -
「あの,私がどんな顔で中岡さん見てたかちょっと分からないんですけど……。でも私小五郎さんから離れないですよ?気持ちも離れてないですよ?」
眉尻を垂れ下げた三津は無表情になってしまった桂の顔を覗き込んだ。
それを聞いた入江は喉を鳴らして笑った。
「藩邸内で見せつけるのやめてくれません?」
そう言われて三津の顔が赤くなる。そんなつもりじゃなかった。桂の不安や嫉妬心を取り除きたいだけだったのに。
「こんなに赤くなっちゃって。桂さんに恋する乙女の顔ですね。」
更に茶化してくる入江に三津は動揺しまくった挙句,
「しっ……私情持ち込んでごめんなさいぃぃっ!」
全速力で逃げた。廊下を駆け抜け姿が見えなくなってから入江は声を上げて笑った。
「九一,あんまり三津をからかわないでくれ。
でも……お陰で可愛いところ見れたよ。」
あんなに全力で逃げなくていいのにと三津が走り去った方を見て笑った。
「何言ってるんですか桂さんは。三津さんは常に可愛いでしょ。傍に置いてると分かんなくなっちゃうんですねぇ。」
入江はちょっとばかりの嫌味を込めた。その嫌味に一瞬目を見開いた桂だったがすぐに目元は涼しげに笑った。
それから何も言わずに踵を返した。
『分かってるさ。九一に言われなくとも分かってる。』
分かってる。それなのに,喧嘩して気付いたばかりなのに,どうしても多くを求めてしまう。
傍に居てくれるだけでいいと思っていたのに。
もっと。もっと。
自分の欲求を満たしてくれと多くを求めてしまう。
『……私は何をしてるんだ。』
自分好みに染め上げようと必死過ぎて,少しでも思い描いたモノと違うと征服欲が働いて全てを支配しようとしている。
冷静さを欠いてる己を恥じる他ない。
少し距離が必要か。
己を見つめ直す時間が必要だと感じた。
『今まではこんなに掻き乱される事などなかったのになぁ。』
それだけ今までの女は適当に扱ってたんだなと今更気付く。酷い男だと自嘲した。
今はどうだ?
さっきも嫉妬に駆られた衝動で脅すような真似をしてしまった。
三津の体が少しだけ震えていたのを思い出す。
『これじゃどっかの鬼と変わらないな……。』
上手くいかないもどかしさから後頭部を掻きむしった。
やる事も一段落させて三津を部屋に迎えに行った。
いつものように帰ろうかと声をかけたのに三津の顔は引き攣った笑みを浮かべていた。
『あぁ……帰ったら酷い目に遭うと思ってるんだろうな……。』
昼間にしてしまった事を後悔して桂の顔も引き攣った。
いつも通り程よい距離を保って家路を辿る。
お互いに何か話そうと思っていたが一言も話す事のないまま家に着いた。
「少しだけ……呑もうかな。」
「はい!すぐに一本浸けますね。」
やっと会話が出来た。三津はいそいそと台所へ行って燗を用意した。
それを持って居間に行くと桂は胡座をかき頬杖をついて難しい顔をしていた。
「……皺。」
三津は正面に座ると人差し指で眉間を押した。
「今日の小五郎さん変です。私のせい……ですよね。」
ごめんなさいと弱々しく笑って頬を掻いた。
桂は首を横に振ってそれを否定した。
「三津は悪くないよ。私が未熟だからこうなった。」
「小五郎さんが未熟なら私はどうなるんですか。」
三津はくすくす笑いながらお酒を注いだ。それからお疲れなんですよと言い聞かせた。悩みの種が多すぎるんだ。
「……あんの、鬼!いきなりお腹詰めるとこを見せるなんて!ウチが文句言うたる!」
事情を話すなり、いきり立って出ていこうとするマサの袖を桜花が引いた。何度も首を横に振って引き止める。
「何でやの、桜花はん。あんたはんは、この八木が預かったんえ。そないな扱いされて黙っとられへんわ」
「私が、ぼんやりしているから悪かったんです。あの人たちは私のことを一人の男として見ている。だから、度胸を付けろと……」
本当にごめんなさい、頭髮稀疏 と桜花は頭を下げた。ただただ今は頭の中がいっぱいで何も考えることが出来なかった。
「おマサさん、お願いです。少しだけ一人になる時間を貰えませんか……」
「……何や、桜花はんの周りは難しいことばかりやなぁ。そんなんじゃ頭いっぱいになってまうわ」
マサはふっと笑うと桜花の手を取る。
「……な、桜花はん。お使い行ってくれへん?勇之助がな、いのり屋の団子を食べたいって言うとったんや。旦那様、ウチ、為三郎、勇之助、そして桜花はん。五人分買うてきて?五条大橋の近くに、緑の旗が立っとるから直ぐに分かるわ。……冷めた方が美味しいから、ついでに散歩でもしておいで。ただし、夕餉までに帰ってきぃな」
小銭を持たせると、背を押した。つまり、一人になれる時間を与えてくれたのである。
桜花は深く頭を下げると、家を出た。すると、裏庭の方からバシャリと水が打たれる音が聞こえてくることに気付く。
恐る恐るそちらを覗いた。
すると、そこには井戸の前で襦袢一枚で頭から水を浴びる沖田の姿があった。何処か物憂げであり、到底近寄れるような雰囲気では無い。
桜花はそっとその場を離れると、街へ向かった。
春の訪れを感じさせる風を受けながら、桜花は街へ出る。一人で出歩くことへの罪悪感が無かった訳では無いが、今は土方へ配慮する気にはならなかった。
五条大橋の近くで棚引く緑の旗を出す店、いのり屋にて団子を注文してから、鴨川沿いをぼんやりと歩く。だがそこは人通りが多く、何度もぶつかりそうになった。その上、奥に巡察中と思わしき浅葱の隊服を見付けたため、逃げるように人の少ない方へ向かう。
すると、見た事のある古びた寺が視界に入った。
「ここは…………」
ずれた石段に、ところどころ崩れた瓦屋根。以前吉田と駆け込んだところだと直ぐに理解する。そしてその時の穏やかな心地を思い出し、そこへ足を踏み入れた。
風に吹かれ、青々とした木々が揺れる。本殿の裏へ回り込み、前と同様に凭れかかるように座った。太陽はに隠されている。
人混みの喧騒も、目を背けたくなるような現実も、そこには無い。あるのは静寂だった。
桜花は伸ばした膝を立てて、抱えるように座り直す。そこに顔を埋めた。
──いくら私のことが気に入らないからって、あんな嫌がらせをしなくても良いのに。
脳裏に浮かぶのは眼前に飛ぶ赤黒い血飛沫。
「…………もうやだ、帰りたい」
──でもどうやって?こうしている間もどんどん忘れていくのに。知らない間に何もかも忘れて、いつか未来に生きていたことすら分からなくなっちゃうんだ。
「私が、何をしたっていうの…………」
神仏と崇められる存在を今まで何度恨んできたことか。人間は平等だと誰かは言ったが、そうは思わない。平等ならば、こうはならない筈なのだ。
必死に一人で生きてきたというのに、その術すら奪われるなんて、生そのものを否定されているような気分になる。
血腥いから逃げ出したかった。
──誰でもいいから、ここから連れ出して。
そう強く思った時、左胸の痣がずしんと重く感じる。それと同時に、人が近付いてくる気配がした。
すん、と鼻を一つ啜り息を潜める。